三回目の人生を生きる

【本当の人生の始まり】

『私達はいわば二回この世に生まれる。一回目は存在するために、二回目は生きるために。』
思想家 ジャン・ジャック・ルソー


子供は生まれてからしばらくは親の教えであったり学校の教えであったり大人の言うことを聞いて育つ。
それは非力な子供がとりあえず生き延びるための処世術であり大人の言うことが正しいかどうかは関係ない。


そうした時期を経て精神的、経済的に独立を果たし自分のことは自分で決め、その決断に責任を持つ覚悟と引き換えに自由を手にする。
ここからが本当の人生の始まりである。


これがルソーの言う「二回この世に生まれる」の意味だと俺は思っている。


しかし、この本当の人生というものはただ年齢を重ねれば始められるものではない。
精神的、経済的な独立というものは意識して努力して訓練しなければ果たせないものなのだ。


その第一歩は子供時代に大人たちに教えられた価値観や常識やルールを疑うことである。


『常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクションである。』
物理学者 アルベルト・アインシュタイン


全てが自分に合っているわけでも全てが自分に合っていないわけでもない。
大切なことは取捨選択である。
身に付けた(身に付いてしまった)偏見のコレクションを一つ一つ精査し断捨離する過程が本当の自分を取り戻すために必要なのだ。


本当の自分、というと疑わしく聞こえる。
人は絶えず変化するものだから。
しかし人格の核となる部分、芯となる部分は不変だ。
人は自分を持って生まれてくる。
新しく創造する必要はない。
生き延びるための方便に埋もれてしまった自分を掘り起こし、日々の生活のしがらみに囚えられてしまった自分を解放しなければならない。
そこからが本当の人生の始まりだ。

俺は自分を知るのに10年かかった。
27歳から37歳までの10年間は明確にそのための時間だった。
それは使い古された言葉で言えば自分探しの旅だった。
完全に理解したわけではないしこれから変わっていく部分もあるだろう。
それでもやっと「自分がどういう人間でどういうふうに生きていきたいのか」「何が好きで何が嫌いなのか」「何があれば満足でそのためには何を捨てられるのか」を掴めた気がする。
ここから、本当の自分の人生を生きていける気がする。


0歳から27歳までの存在するための人生、27歳から37歳までの知るための人生。
そして38歳から三回目の、生きるための人生だ。